近鉄5800系電車

長距離客も通勤ラッシュも快適に・・・無理難題への一つの答え 

5800系

奈良線所属の車両は全編成が阪神線直通対応改造を受けている。(河内小阪駅 撮影:ムーチョ)

●基本データ

・最高速度 110km/h
・運用線区・・・・奈良線・京都線・橿原線・天理線・大阪線・名古屋線・山田線・鳥羽線
         阪神なんば線・阪神本線(尼崎〜三宮)

5800系は1997年に登場した通勤型電車。奈良線系統に6連5本、大阪線に6連2本、名古屋線に4連1本が在籍している。電算記号は奈良線の車両はDH、大阪線の車両はDF、名古屋線の車両はDG。大阪線・名古屋線用の車両にはトイレが設置されており、長距離運用にも対応する。

車体や制御機器は大阪線の1620系がベースであり、手堅く造ってあるのだが、その特徴は椅子にある。

2610系や2800系改造車で試験を行ったデュアルシートを本格採用した。このデュアルシート、遠隔操作によって座席が90度回転することでロングシート・クロスシートの両方を兼ねられるというものだ。さらにクロスシート時には自動転換で座席の向きをそろえられるほか、足元のペダルを踏むことで手動で回転できるため、4人向かい合わせのボックスシートにすることも可能である。「Long」と「Closs」を両立できる車両ということで、「L/Cカー」と命名され、運転席窓下にそれを示す銀色のステッカーが貼られている。

近鉄はそれまで通勤ラッシュを捌くことと長距離客を快適に運ぶことの両立に苦労してきた歴史があり(2610系ではラッシュ対策で通路を広げたら座席が狭くなりすぎて、5200系で転換クロスにしてみたら詰め込みが効かずにラッシュ時には使い物にならなかった)、ロング・クロス両方に対応した車両を造る、というのは通勤ラッシュと長距離輸送の両立という一見無理な問題に対する一つの解答だと個人的には思う。

ただ、メンテナンスが難しく、製造費用も高価であるため、近鉄以外での採用例はJR東日本の205系3100番台の一部や東武50090系など少数に留まる。

座席配置に関する唯一の問題点としては、ロングシート時にどうしても扉間6人がけとなるため(通常のロングシート車より 1人少ない)、ラッシュピーク時には普通・準急などの下位種別での運用が中心になるようにしなければならないこと、折返駅で降車完了後に座席を転換したあと乗車客を乗せることから、折り返し時間を長めに設定しなければならないことが挙げられるが、これはもうどうしようもない。残念なのが、奈良線系統の車両は京都線・橿原線・天理線での運用時には全列車ロングシートになってしまうことだ。

2009年に阪神なんば線が開業すると、奈良線系統に在籍する5本は全編成が阪神直通対応改造を受けたため、それらにはL/Cステッカーに加えて水色の直通対応車であることを示すステッカーも貼られるようになった。

ちなみに、乗り入れ開始当初の規定では、直通列車の運用に入る際にはロングシートと定められていたのだが、クロスシートでも意外と捌けることに気付いた近鉄と阪神はその後クロスシート状態での乗り入れも行うようになった。ただし阪神の乗務員には座席転換の方法は教育されておらず、乗客自分で座席を方向転換する必要がある。


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